ライフ

日本には1000兆円の負債は嘘 本当は300兆円と元財務省職員

【書評】『バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる』(高橋洋一著/光文社新書/777円)
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 * * *
 いま日本は、1000兆円の負債を抱え、国民一人あたり800万円の借金を抱えている――。財務省はメディアでしきりにこう喧伝するが、「実際に財務省でその係」だった著者によれば、それは一面的な事実でしかない。「財務省がいうことは、発言の範囲では嘘はありません。ただし、全部はいわないのです。都合の悪いことはいわないでおくのですが、嘘はついていない。立派なものです」。

 財務官僚たちが、あえていわない「都合の悪いこと」とは、特別会計の実像であり、そのさきにある特殊法人、つまり天下り制度のカラクリである。そのために彼らが使う強力な武器は、数字だ。したがって著者もまた、たぐい希なる数字のセンスを駆使し、建国以来はじめて国家財政を「バランスシート」にのせるシステムを構築した。結果、国民のまえに浮かび上がったのが、計18種類もある特別会計の不可思議な実態と、「埋蔵金」の存在である。

 埋蔵金といっても、霞が関の地下に金塊や小判が隠されているわけではない。「特別会計ごとのバランスシートで……資産が負債を上回るとき」の「差額」を指したものだ。そこで顕在化した40兆円の埋蔵金の存在を、官僚らは「ない」というが「会計的には明らかに存在」している。

 この埋蔵金も含め、特別会計が貯めこむ資産のなかには、天下り先である特殊法人への「出資金や貸付金」がある。本社である国の財政はとてつもない負債を抱えているというのに、子会社である特殊法人は、内部留保がありながらも廃止を恐れ、この出資金を手放そうとしない。

 ここで冒頭に話を戻すと、財務省がいわなかったこれら資産は、総額700兆円ある。つまり資産と負債のバランスでみると、実質的な負債は300兆円。1000兆円という数字は、一種の増税キャンペーンなのである。ほかにもデフレと少子化の相関性、円高の理由といった「ニュース記事も面白く読める」ようになる、知的で刺激的な“脳トレ本”である。

※週刊ポスト2011年3月4日号

関連キーワード

トピックス

Number_iのメンバーとの“絆”を感じさせた永瀬廉
キンプリ永瀬廉、ライブで登場した“シマエナガ”グッズに込められたNumber_iとの絆 別のグループで活動していても、ともに変わらない「世界へ」という思い 
女性セブン
梨田昌孝氏は今季のパ・リーグは「2強」と見る
【2025年プロ野球順位予想】梨田昌孝氏が占うパ・リーグ 本命はソフトバンク、日本ハムも魅力的「新庄マジックは健在、ひょっとしたら優勝も」
週刊ポスト
破局していたことがわかった広瀬(時事通信フォト)
《女優・広瀬すずと交際相手が破局》金色ペアリング熱愛報道も…昨年末に「薬指のリング」は“もうつけない”の異変
NEWSポストセブン
“スーパーサラリーマン清水”と“牛飼”の関係とは──。
成金トクリュウ“牛飼” 斎藤大器容疑者(33)と“スーパーサラリーマン清水” 清水謙行容疑者(49)の“意外な繋がり”「牛飼に近い人物が関西に“点検商法”を持ち込んだ」
NEWSポストセブン
春の園遊会では別の道を歩かれる雅子さまと紀子さま(2024年10月、東京・港区。撮影/JMPA) 
春の園遊会が60年ぶりの大改革 両陛下、秋篠宮ご夫妻、愛子さま、佳子さまが3組に分かれ“皇族方の渋滞”を解消、“じっくりご歓談”“待ち時間短縮”の一石二鳥 
女性セブン
「スーパーサラリーマン」を自称していた清水謙行容疑者(49)(知人提供)
【被害額100億円以上】スーパーサラリーマン清水は“悪質点検商法のパイオニア”だった「上半身に和彫り、まるでヤクザの集会…」「高級時計、札束で大バズり」
NEWSポストセブン
1月のOB会総会で厳しい現状を語った桑田OB会長(PL学園のグラウンド/産経新聞社提供)
PL学園「野球部復活」はおろか「2025年度の受験者は過去最低の2人…」桑田真澄OB会長も「生徒を増やす方法がない」【大阪・授業料無償化のなかでの惨状】
NEWSポストセブン
広岡達朗氏は古巣・巨人への“辛口見解”も
【2025年プロ野球順位予想】広岡達朗氏、古巣・巨人は「大補強と言うほど戦力アップになっていない」と辛口見解 優勝は「阪神が1位と予想せざるを得ないな」
週刊ポスト
すき家がネズミ混入を認める(時事通信フォト、写真は東京都港区の店舗)
【ネズミ混入味噌汁・被害者とのやり取り判明】すき家は「電話を受けた担当者からお詫び申し上げました」 本社も把握していたのに2ヶ月公表しなかった謎
NEWSポストセブン
水原の収監後の生活はどうなるのか(AFLO、右は収監予定のターミナル・アイランド連邦矯正施設のHPより)
《水原一平被告の収監まで秒読み》移送予定刑務所は「深刻な老朽化」、セキュリティレベルは“下から2番目”「人種ごとにボスがいて…」 “良い子”にしていれば刑期短縮も
NEWSポストセブン
眞子さんの箱根旅行のお姿。耳には目立つイヤリングも(2018年)
小室眞子さんの“ゆったりすぎるコート”に「マタニティコーデ」を指摘する声も…皇室ジャーナリスト「ご懐妊でも公表しない可能性」
NEWSポストセブン
これまで多くの新海誠監督作品に携わってきた友澤さん。映画ドラえもんには初参加となる
「ドラえもん愛」が結実!『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』美術監督が明かす「ドラえもんらしい背景」と「愛情たっぷりの名場面」
NEWSポストセブン